日本の隠れたオカルト名所捜索記 vol.6 「御籠山」 その1

*本記事は月刊・アトランティス2025年6月号において、掲載された記事となります。

 WEB用に再編集を加えたものを、4週に渡り掲載させたいただきます。


紫陽花が咲き誇る村にある怪奇な山

 例えば、山の奥に精霊や妖怪などの人智を越えた存在がいたとしても、そこに人が踏み込まなければ、人間や社会がその事実を知ることはありません。

 結果的に、いわゆるオカルトスポットとして語られるのは、人と関わりがある場所であることが多くなります。

 例えば森の中にある廃墟や、山間にあるトンネルなど、一見、自然の中にあるように見えても、やはり、そこには人という存在が見え隠れしています。

 本コーナーも、その例に漏れず、過去六回全てが人の生活が色濃い場所に存在しているスポットばかりを紹介してきました。

 ですが、今回紹介するのは、そういった意味では非常に異色な場所となります。

 その山の名は「御籠山」

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 まさに自然そのもの。

 そして、実に数奇な歴史を紡いできた山なのです。

山と、その周辺の歴史

 御籠山があるのは、関東にある四片(よひら)村。

 この四片(よひら)とは紫陽花の別名であり、その名の通り、自生の紫陽花が多く咲き誇る景勝地です。

 その名の由来を知ると、豊かな自然に囲まれた、恵まれた地であると想像してしまうかもしれません。

 ですが、かつての四片村は、そうではありませんでした。

 村を含めた一帯は粟成(あわなり)と呼ばれた地域であり、その意味は「粟くらいしか食べられるものは育たない」という意味であったようです。

 つまりは酷く荒れた土地であったのです。

 実際に、この地域で人が生活を始めたのは、江戸時代が始まる直前辺りのことだと村の歴史には記録されています。

 また、この時期に、現在の名に改められており、その理由について、この地の歴史を研究している宇都宮中央大学の滑田教授は著書で、こう推測しています。

「周辺地域の記録から読み取るに、この地は人が住むには相当に過酷な地であり、定住したものたちは、それなりの理由があり流れ着いたものたちであったようである。

 この地で生きるしかない彼らは、ここに骨をうずめる覚悟をし、せめてもの願いを込めて村の名を改めたのだろう」

 当然、粟成という地域に含まれていた御籠山もまた、資源に乏しい山であったのでしょう。

 山頂に建立されている神社が、水や豊穣にまつわるものらしいことからも、そういった過去を窺い知ることができます。

 実際に、現地に足を運んだ筆者からすれば、現在はそれらの過去を想像することも難しいほどに自然豊かな地であることを、補足として記しておきます。

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三つの事件

 さて、山にある神社というキーワードに対し、賢明なる読者である皆様は、本命の登場かと考えられたかもしれません……が、本件に、この神社は関わることはありません。

 かつて幽霊を見たなどの噂はあったようですが、それは一般的な寺社仏閣についてまわるそれと、大差のないものです。

 御籠山には、そういったありがちな噂ではなく、はっきりと記録に残るだけでも三つの凄惨かつ奇妙な事件が起こっています。

 それこそが、真のオカルトマニアたちが、この地に注目する理由であり、本稿の主題となる内容なのです。

 それらの事件に主題をつけるのだとすれば、以下のようになるでしょう

1・四百年前に起きた、村人と役人全員が全滅したとされる謎の紛争

2・半世紀前に起きた、風土病と発端とする大規模な心中事件

3・三十年前に起きた、あるホラー小説家の焼身自殺

 驚くべきことに、これらの出来事が、片田舎にある小さな山で発生しているという事実。

 オカルトマニアでなくとも、そこに何らかの意味があるのではと、考えるのが当然でしょう。

 果たしてこれらは、現実的な事故や事件なのか?

 あるいは本誌を愛する皆様が求める真相がそこに隠れているのか?

 それぞれの事件について、一つずつ詳細に紐解いていくことにしましょう。

その2へ続く

この記事を書いた人
おばけ豆腐
自称、実践派のオカルト研究家。オカルトライター。1999年生まれ。

某大学在学中にて民俗学を専攻。岩手県にてフィールドワークを行っていた最中に、不思議な出来事に遭遇。
以来、不思議なもの奇妙なものに魅せられ、それを追い求める活動を行っている。

全国各地でオカルト関連、特に怪談系のイベントなどの主催も行っている。